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毛髪は人体の臓器の1つです。他の臓器は完成すれば一生変わりませんが、毛髪は組織の退行と再生を規則的なサイクルで繰り返し、生涯に何度も生まれ変わります。それにもかかわらず、薄毛で悩む男性が大勢います。再生できるはずの髪が、なぜ少なくなるのでしょうか。 多くの男性の薄毛の原因は「男性型脱毛症(AGA)」と呼ばれるもので、主な原因は、男性ホルモン、酵素、遺伝、年齢の四つです。思春期から壮年期以降に遺伝的要素と男性ホルモンが原因となり、男性型脱毛が始まります。 男性は思春期以降、急激に男性ホルモンが増えますが、この男性ホルモンが薄毛に大きな影響を与えています。髪の毛根には5αリダクターゼという酵素が存在しており、血液中に流れてきた男性ホルモンの「テストステロン」は、この酵素の作用によって強力な「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変化します。 テストステロンには毛を太くする作用があり、これ自体が薄毛の原因になることはありません。ところが、DHTはテストステロンよりもホルモンの活性が10~30倍も強いため、毛を作り出す毛母細胞の働きを弱めてしまいます。その結果、薄毛を引き起こします。 5αリダクターゼはⅠ型とⅡ型の二種類あることが判明しています。Ⅰ型は頭髪、ひげ、陰毛、わき毛など毛が生えている部分にまんべんなく存在しており、Ⅱ型は前頭部から頭頂部とひげのみに集中しています。頭髪の毛根を弱めて薄毛の原因となるDHTを作るのはⅡ型であるというのが、最近の研究で明らかになっています。 頭髪でⅡ型の酵素をもっているのは前頭部から頭頂部の毛根です。後頭部から側頭部の毛根はⅡ型の酵素をもっていないのでDHTを作りません。どんなに薄毛が進んでも、側頭部や後頭部の髪が残っているのはこのためです。 男性はみんなテストステロンをもっていますが、若い内から薄毛になる方もいれば、中高年になってもフサフサと髪が生えている方もいます。この違いは、5αリダクターゼの働き方の強さと、男性ホルモンに対する感受性の強さが異なるからです。Ⅱ型の5αリダクターゼの働きが強いほど、DHTは大量に作り出され、さらにその作用を受けやすい性質の人ほど薄毛は進行しやすくなります。 薄毛の原因に遺伝が含まれるのは、こういった性質が親から子へと遺伝するからです。たとえば、少量のお酒で酔う人と、多量のお酒を飲んでも酔わない人がいるようなものです。━「医療で治す薄毛の悩み」より引用
■コラム著者紹介
医学博士/ 柳生邦良 <やぎゅうくによし>
銀座HSクリニック総院長(現職)
東京大学医学部卒業。医学博士。
国際毛髪外科学会(ISHRS)理事、アジア毛髪外科医学会(AAHRS)理事、アメリカ毛髪外科(ABHRS)専門医、日本臨床毛髪学会理事。
植毛に関するすぐれた研究業績に対して、日本臨床毛髪学会から「第1回平山賞」を受賞。