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櫛で髪をとかしたときに毛が抜けたり、枕に抜け毛が多かったりすると心配になりますが、それが即薄毛につながるというものではありません。 人間に生えている毛は、細くて短い毛(うぶ毛や軟毛)と、頭髪、胸毛、わき毛、まゆ毛、まつ毛のように太くて濃い毛(終末毛)の二つに大別されます。人間は体毛が少ないように思われていますが、哺乳類の仲間ですから、手のひらや足の裏を除き、全身にうぶ毛や軟毛が密集しています。終末毛と合わせると、人間の体毛の総数は500万本にも及ぶと言われています。気になる頭髪の平均本数は、白色人種で10~15万本、黄色人種で8~12万本、黒色人種で8~10万本程度です。 体毛数は、一人ひとり遺伝子レベルで決められていますから、赤ちゃんのときも、青年になってからも、その総数はほとんど変わりません。思春期の頃、急にひげやわきなどの毛が生えてきて「大人になった」と感じても、実際にはもともと生えていた細くて柔らかいうぶ毛の色が濃くなってきただけのことです。 体毛数は生まれてからほぼ一生変わりませんが、なぜ、途中から薄毛になるのでしょうか。毛には「毛周期」という成長のサイクルがあります。そして頭皮の下に埋まった毛の部分には、再生の元になる幹細胞があり、さらには先の毛球部に細胞分裂を繰り返す毛母細胞と、毛母細胞に種々の成長因子のシグナルを送る毛乳頭があり、これら相互の働きによって毛が伸びていきます。 しかし、どんなに丈夫な毛髪であっても一生伸び続けることはできません。毛の一生には成長期(約1000日間/3~7年、女性のほうが男性より長い)、退行期(2~3週間)、休止期(3~4ヶ月)、替毛期(数週間~数ヶ月)の四つの時期があり、一定期間の成長期を過ぎると退行期に入って成長が止まり抜け落ち、再び成長を始める、というサイクルを繰り返しています。通常、毛髪の約90%は成長期と退行期の状態にあり、残りの10%は休止期と替毛期にあります。日本人の平均的な毛髪総数が約10万本ですから、毎日約100本(70~150本)程度は抜け替わっていることになります。この程度なら、誰にでも見られる生理現象の範囲内です。 しかし、男性型脱毛が始まると、成長期の長さが短縮され、その割合も減少し、休止期の毛が多くなります。こうなると、細くて短い毛の状態で成長期が止まり、次の毛が生えるまでしばらく期間があくことになります。太い毛の数が減って、細くて短い毛が増えると、頭皮を隠す直径の太い毛が足りないので、髪のすき間から地肌が透けて薄毛の状態になります。━「医療で治す薄毛の悩み」より引用
■コラム著者紹介
医学博士/ 柳生邦良 <やぎゅうくによし>
銀座HSクリニック総院長(現職)
東京大学医学部卒業。医学博士。
国際毛髪外科学会(ISHRS)理事、アジア毛髪外科医学会(AAHRS)理事、アメリカ毛髪外科(ABHRS)専門医、日本臨床毛髪学会理事。
植毛に関するすぐれた研究業績に対して、日本臨床毛髪学会から「第1回平山賞」を受賞。