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毛髪再生治療は、脱毛や薄毛に悩む人を対象に科学的なアプローチを用いて毛髪の再生を目指す治療法の総称です。
近年の技術革新により治療法は従来の薬物療法や植毛だけでなく、再生医療や幹細胞技術を活用したものへと発展しています。
この記事では主な毛髪再生治療の方法と特徴について解説します。
自分の細胞から培養する「毛髪再生治療」
毛髪再生治療において自分の細胞を用いて育毛・増毛する方法は近年注目を集めている治療法の一つです。
髪の毛を生やすための細胞の働きを促す効果を期待して治療を施します。
主に毛包や頭皮環境を再生させるための治療として用いられています。
あくまでも治療行為ですので、病院や専門のクリニックで受けるのが一般的です。
毛髪再生治療は、現在のところ保険治療では受けられません。
基本的には自由診療で受ける治療となるため、費用は自己負担となります。(2024年12月現在)
脂肪幹細胞由来の「幹細胞移植」による治療効果
脂肪細胞由来幹細胞(Adipose-Derived Stem Cells, ADSCs)は、脂肪組織から採取される多能性幹細胞です。
組織修復や再生能力をサポートする他に、成長因子などを分泌する能力があります。
何らかの理由により活動が緩やかになってしまった髪の毛を生やす役割を持つ「毛包」に対して、髪の毛を生やす機能の再生を促す効果が期待できます。
血管新生の促進
幹細胞が分泌する成長因子(特にVEGF:血管内皮増殖因子)は毛包周辺の血管新生を促し、毛母細胞への酸素や栄養の供給を改善します。
薄毛の要因の中に「髪の毛への酸素や栄養素の供給不足」や「老廃物の排泄機能の低下」があるため、血管新生が促されることで毛髪の成長サイクルの活性化が期待できます。
成長因子による毛根周辺の炎症抑制
毛根周辺の炎症により組織にダメージが及び、脱毛が起こる場合があります。
幹細胞が産生する成長因子により、毛包周囲の炎症を抑える効果が期待できます。
炎症が改善することで抜け毛の抑制につながり、薄毛の進行予防につながるでしょう。
頭皮環境の改善
頭皮環境のダメージや頭皮の乱れは抜け毛や薄毛の要因になります。
幹細胞の作用により、頭皮の皮膚細胞の修復や再生が促進され、頭皮の柔軟性や健康状態の改善が期待できます。
幹細胞とは?
幹細胞は、体のあらゆる組織や細胞に分化できる能力を持つ特別な細胞で、再生医療や毛髪再生分野で注目されています。
幹細胞には分化能や自己複製能を持つという特徴があり、さまざまな種類があります。
その中でも脂肪由来の幹細胞は採取が容易であり、再生医療や美容医療でも活用しやすいため近年注目が集まっています。(2024年12月現在)
①多能性幹細胞(Pluripotent Stem Cells)
全ての細胞に分化可能な幹細胞です。 例としてiPS細胞やES細胞があり、再生医療の基礎研究に用いられています。
全ての細胞に分化可能な幹細胞です。 例としてiPS細胞やES細胞があり、再生医療の基礎研究に用いられています。
②組織幹細胞(Adult Stem Cells)
体の中の組織や臓器に存在し、その組織の細胞に分化します。 多能性幹細胞とは異なり、何でも分化できる細胞ではなく、その組織を作る細胞に分化します。
体の中の組織や臓器に存在し、その組織の細胞に分化します。 多能性幹細胞とは異なり、何でも分化できる細胞ではなく、その組織を作る細胞に分化します。
自分の頭皮から細胞を培養し移植する「S-DSC®」
「S-DSC®」は、自分の髪の毛が生えている部分の頭皮から採取した細胞を培養し、再び頭皮に移植する毛髪再生医療の一つです。
この技術は安全性が高く、個人に適した治療法として注目されています。
以下にその治療効果とメカニズムを詳しく解説します。
毛乳頭細胞の活性化
毛乳頭細胞は、髪の毛の成長を指揮する役割を持つ細胞です。
「S-DSC®」では、頭皮から採取した毛乳頭細胞を培養・濃縮し、成長因子を豊富に含む状態で再び頭皮に移植します。
毛乳頭細胞が活性化されることで、髪の毛が太く成長する効果が期待できます。
髪の成長が健やかに進むことによって、見た目印象としての薄毛が改善すると考えられています。
頭皮の炎症の抑制
頭皮の炎症は、毛髪の成長環境を悪化させる大きな要因です。
「S-DSC®」により移植された細胞は、抗炎症作用を持つ成長因子を分泌します。
炎症が抑えられることで頭皮のバリア機能などが回復し、健康な髪が育つ土台が整います。
炎症によるダメージが軽減されることで、頭皮のトラブルが減少したり、過剰な皮脂分泌がコントロールされ、毛穴の詰まりが軽減できる効果も期待できます。
DSC細胞とは?
DSC細胞(Dermal Sheath Cup Cells)とは、頭皮の毛包の基底部に存在する細胞です。
DSC細胞は、毛包再生や毛乳頭細胞の補助的な役割を担うとされています。
主に考えられる補助的な役割は以下です。
①毛乳頭の分化を促進
毛乳頭細胞が分化する働きを促進させます。
毛乳頭細胞が分化する働きを促進させます。
②抗炎症作用
頭皮の炎症を抑え、髪の成長を阻害する頭皮のダメージやトラブルの改善に貢献します。
頭皮の炎症を抑え、髪の成長を阻害する頭皮のダメージやトラブルの改善に貢献します。
毛髪再生治療と呼ばれるその他の治療法
自身の細胞を使用した毛髪再生治療以外にも、従来から「毛髪再生治療」として用いられてきた治療方法があります。
外部から採取された成長因子を用いたり、自分自身の発毛に関する働きを促したりする方法があります。
毛髪再生医療に明確な定義はありませんが、同治療として一般的に用いられる治療法について解説します。
薬物療法
薬物療法は、現在でも一般的な薄毛に対する治療法です。
特別な基礎疾患がない限り誰にでも取り入れやすく、自由診療の中でも比較的安価なため、育毛や増毛を考えたときに最初に選択されやすい方法です。
①ミノキシジル
高血圧薬の開発の段階で発見された毛髪に期待できる効果を用いた治療薬です。
高血圧薬の開発の段階で発見された毛髪に期待できる効果を用いた治療薬です。
●作用機序:血流を促進し毛包に酸素と栄養を供給
●効果:主に進行性脱毛症の初期段階で効果を発揮
●デメリット:継続的な使用が必要で中止すると効果が消失する可能性がある
●効果:主に進行性脱毛症の初期段階で効果を発揮
●デメリット:継続的な使用が必要で中止すると効果が消失する可能性がある
②フィナステリド
男性ホルモンが要因で薄毛の症状が起きている治療に用いられます。
男性ホルモンが要因で薄毛の症状が起きている治療に用いられます。
●作用機序:ジヒドロテストステロン(DHT)の生成を抑制し男性型脱毛症の進行を遅らせる
●効果:特に男性型脱毛症に有効
●デメリット:一部の患者で性機能低下などの副作用の報告がある
●効果:特に男性型脱毛症に有効
●デメリット:一部の患者で性機能低下などの副作用の報告がある
植毛
自分自身の健康な毛髪を毛包ごと薄毛部位に移植する手術です。
●方法:
○FUE(Follicular Unit Extraction):毛包単位で採取し移植する方法
○FUT(Follicular Unit Transplantation):頭皮を一部切除しそこから毛包を採取して移植する方法
○FUE(Follicular Unit Extraction):毛包単位で採取し移植する方法
○FUT(Follicular Unit Transplantation):頭皮を一部切除しそこから毛包を採取して移植する方法
●メリット:組織が定着すれば永続的な結果が期待できる(加齢に伴う変化はあり)
●デメリット:外科的手術のため回復期間や費用が必要
●デメリット:外科的手術のため回復期間や費用が必要
PRP療法
患者自身の血液から抽出した血液から成長因子を放出する血小板を抽出し、頭皮に注射する治療法です。
血小板液は遠心分離器にかけた濃度の濃いものを用います。
●作用機序:血小板に含まれる成長因子が毛包幹細胞の活性化を期待
●効果:毛髪の成長促進、抜け毛の抑制
●メリット:自己由来の治療で副作用が少ない
●効果:毛髪の成長促進、抜け毛の抑制
●メリット:自己由来の治療で副作用が少ない
毛髪再生治療の注意点
毛髪再生治療は薄毛に悩む多くの人に希望を与える治療法ですが、治療を進めるうえでおさえておきたいことや注意点もあります。
個人差がある
毛髪再生治療の効果には個々の体質や脱毛の原因、進行具合によって有意差があります。
例えば、男性型脱毛症(AGA)はホルモンバランスや遺伝が関与しており、治療薬や成長因子注射などが有効とされていますが、全員が同じように反応するわけではありません。
また、毛包の状態により機能が完全に停止している場合には、良い結果が得られなかったり、期待できる効果が薄い場合もあります。
一方、円形脱毛症のように免疫系が関与する脱毛では、ステロイド治療や免疫療法が選ばれることもあります。
生活習慣や栄養状態、ストレスなど明確な要因が絡んでいる場合には、原因の排除や改善が必要な場合もあるでしょう。
継続性が重要
毛髪再生治療は一度行えば永続的な効果が得られるわけではなく、継続的な治療が必要なケースも少なくありません。
特に薬物療法(フィナステリドやミノキシジル)では、服用や外用をやめると効果が持続せず、再び脱毛が進行するケースもあります。
また、自己細胞移植により毛包の機能を取り戻したとしても、加齢による変化は他の細胞と同じように進みます。
細胞の効果を長く保つためには、適切な頭皮環境を整える意識も重要です。
また、症状により定期的にメンテナンスを行う必要がある場合もあります。
専門医の診断が不可欠
毛髪の状態を正確に診断し、最適な治療を選ぶためには、毛髪治療の専門医の診察が不可欠です。
近年、外用薬などはドラックストアなどでも手軽に入手できますが、自己判断で治療を進めると効果が得られないばかりか、頭皮や健康に悪影響を及ぼす可能性もあります。
治療開始を検討する場合には専門医にAGA、円形脱毛症、ストレス性脱毛など、原因を特定してもらうことで適切な治療が選べます。
また、治療には副作用があるため、専門医のもとで管理することで思わぬ副作用の出現時にも迅速な対応ができるでしょう。
全額自己負担になるケースが多い
毛髪再生治療は自由診療(保険適用外)のため、基本的には全額自己負担です。
治療内容や回数、クリニックによって費用が異なるため事前に詳細を確認しましょう。
(費用の一例)
●PRP療法:1回あたり数万円〜10万円程度
●幹細胞治療:数十万円〜100万円以上かかることも
●薬物療法:毎月数千円〜1万円程度のランニングコスト
●PRP療法:1回あたり数万円〜10万円程度
●幹細胞治療:数十万円〜100万円以上かかることも
●薬物療法:毎月数千円〜1万円程度のランニングコスト
治療費が高額になる場合もあるため予算を考慮し、事前にカウンセリングを受けて見積もりを確認することも重要です。
まとめ
毛髪再生治療は、薬物療法や植毛といった従来の方法から再生医療や幹細胞治療へと進化が目覚ましい分野の一つです。
毛髪再生治療はそれぞれにメリットとデメリットがあるため、自分の薄毛の状況や経済的事情も加味して選択したいものです。
薄毛や白髪に悩む方にとって、毛髪再生治療は希望となる可能性があります。
興味がある場合は専門医に相談して適切な治療法を検討しましょう。
監修者:繁和泉
看護師、予防医学士として17年。その中で毛髪再生外来の診療に携わる。薄毛にともなう患者さんのお悩みに寄り添いながら、医学的なアプローチも含め「長い目で見た」毛髪のための日常生活やケアについての指導を個別性に合わせて提供。
同時に、情報化社会の中でWEBコンテンツで「正しい情報をわかりやすく」発信することに精を出す。