脂漏性脱毛症とは?最新治療方法と注意点

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頭皮がベタついたり、かゆみが続いたりするだけでなく、最近抜け毛が増えてきたと感じることはありませんか?
その原因の一つとして考えられるのが「脂漏性脱毛症」です。
脂漏性脱毛症は、皮脂の過剰分泌やマラセチア菌の異常増殖によって引き起こされる脱毛症の一種です。 放置すると抜け毛が進行し、薄毛につながる可能性もあります。
この脱毛症は、AGA(男性型脱毛症)や円形脱毛症とは異なり、頭皮の炎症が原因となるため、適切なケアや治療によって改善が期待できます。
症状としては脂っぽいフケやかゆみ、赤みが特徴で、進行すると髪の毛が細くなったり、抜けやすくなったりすることが知られています。
本記事では、脂漏性脱毛症が発生する原因や症状、最新の治療法について詳しく解説します。(2025年3月現在)
頭皮環境を整え、健やかな髪を維持するための第一歩を一緒に学んでいきましょう。

脂漏性脱毛症ってどんな状態?

脂漏性脱毛症は、頭皮の過剰な皮脂分泌や皮膚常在菌であるマラセチア菌の異常増殖が関与し、炎症を伴いながら進行する脱毛症の一つです。
この疾患はAGA(男性型脱毛症)や円形脱毛症とは異なり、頭皮環境の悪化が主な原因となるため、適切なケアによって症状の改善が期待できます。 早期発見・早期治療のために脂漏性脱毛症の症状をおさえておきましょう。

脂漏性脱毛症の主な症状

脂漏性脱毛症の症状は、頭皮の皮脂分泌の過剰や炎症が原因となって引き起こされます。 以下のような症状が見られる場合、脂漏性脱毛症の可能性が考えられます。

1.頭皮がかゆくなりフケが出る

脂漏性脱毛症の初期段階では頭皮の皮脂バランスが乱れ、フケが発生しやすくなります。 このフケは乾燥によるフケとは異なり、ベタついた脂っぽいフケであることが特徴です。
また、マラセチア菌の増殖によって炎症が起こるため、かゆみがともなうことが多く、無意識のうちに頭皮をかいてしまうことで症状が悪化することもあります。

2.赤みや炎症が発生する

脂漏性脱毛症が進行すると、頭皮に赤みや炎症が見られるようになります。 これは、皮脂が過剰に分泌されることで毛穴が詰まり、炎症を引き起こすためです。
炎症が慢性化すると毛根にダメージが蓄積し、髪の毛の成長が妨げられるため、薄毛や脱毛のリスクが高まります。

3.頭皮がベタつく

過剰な皮脂が分泌されることで、頭皮全体が脂っぽくなり、髪がペタッとした状態になるのも脂漏性脱毛症の特徴の一つです。 頭皮環境のバランスの乱れが要因と考えられています。

4.抜け毛が増える

脂漏性脱毛症が進行すると、抜け毛の量が増加します。 これは、頭皮の炎症が長引くことで毛根がダメージを受け、髪の毛の成長が阻害されるためです。
特に、シャンプー時やブラッシングの際に通常より多くの髪の毛が抜ける場合、脂漏性脱毛症の可能性を考慮する必要があります。

脂漏性脱毛症の原因

脂漏性脱毛症には、いくつかの原因があります。 ここでは、脂漏性脱毛症の原因について解説します。

皮脂分泌が通常より多い

脂漏性脱毛症は皮脂の分泌量が平均よりも過剰になっています。
皮脂は一般的に頭皮を乾燥や外部刺激から守る役割を持ちますが、皮脂の分泌量が過剰になると毛穴が詰まり、皮膚の炎症を引き起こす原因となるのです。

マラセチア菌が悪影響を及ぼしている可能性

マラセチア菌は、皮膚に常在するカビ(真菌)の一種です。皮脂を栄養源として生息しています。
通常は皮膚のバリア機能を維持するために役立っていますが、皮脂が過剰に分泌されると異常増殖し、炎症やかゆみ、フケなどの皮膚トラブルを引き起こす原因となるのです。
脂漏性皮膚炎や脂漏性脱毛症の発症には、このマラセチア菌の増殖が深く関わっていることがわかっています。

ホルモンの分泌が乱れている

脂漏性脱毛症は、ホルモンの影響を受ける脱毛症の一つです。 ホルモンバランスが崩れると皮脂腺が刺激され、皮脂の過剰分泌につながります。
ホルモンの中でも「アンドロゲン(男性ホルモン)」は、皮脂腺を刺激する作用があります。
ホルモンバランスの変化によって分泌が増えると、皮脂の過剰分泌が引き起こされることがあります。 そのため、脂漏性脱毛症は女性よりも男性の方がなりやすいと されています。

頭皮環境の悪化

不適切な頭皮ケアにより皮脂の過剰分泌につながれば、脂漏性脱毛症の原因になり得ます。
例えば、洗髪のしすぎは必要な皮脂まで取り除き、皮脂腺が過剰に働いて皮脂の分泌量が増加します。 また、刺激の強いシャンプーの使用も注意が必要です。
強い洗浄成分が含まれたシャンプーは頭皮に負担をかけ、炎症を引き起こす原因になります。 シャンプー後のすすぎ不足は、洗浄成分の残留による毛穴詰まりを引き起こし、炎症や抜け毛のリスクを高めます。

正常な皮脂分泌はどうやって起こる?

皮脂分泌は、皮膚の保護や保湿、バリア機能を保つためになされます。 脂腺細胞が成長し、脂肪滴を蓄えた後に破裂して皮脂を放出し、これが毛穴を通じて皮膚表面に分泌されます。
皮脂は肌の乾燥や外部刺激から守るバリアの役割を果たしています。
皮脂分泌の調整にはホルモンが大きく関与しており、特に男性ホルモンであるテストステロンが重要な働きをしています。
皮脂腺内には5α-リダクターゼという酵素が存在し、これがテストステロンをDHT(ジヒドロテストステロン)に変換します。 DHTが皮脂腺内の受容体と結びつくことで皮脂の分泌が促進されるのです。

脂漏性脱毛症はどの部位に症状が出やすいのか

脂漏性脱毛症は、皮脂の分泌が多い部位に発症しやすいのが特徴です。
脂漏性皮膚炎は体に起こる皮脂の過剰分泌による炎症性疾患で、その炎症が頭皮に及ぶと結果として脱毛症につながります。
頭皮の中でも頭頂部や前頭部(生え際)は皮脂腺が活発で、過剰な皮脂が溜まりやすい部分です。

脂漏性脱毛症と他の脱毛症の違い

脂漏性脱毛症のほかにも、脱毛になる疾患はいくつかあります。 ここでは、脂漏性脱毛症との違いについて解説します。

AGA(男性型脱毛症)はホルモンが主な原因

AGAは、DHT(ジヒドロテストステロン)というホルモンが毛包に影響を与え、髪の毛の成長サイクルを短縮させることで進行します。
髪の毛の成長期が短縮することで髪が細く・短くなり、やがて抜け落ちていくのが特徴です。
AGAは炎症やフケを伴うことはほとんどなく、主に髪の毛の成長が妨げられることによって薄毛が進行します。

脂漏性脱毛症の治療方法

脂漏性脱毛症は原因になっている症状の治療ができれば、改善が期待できる疾患です。 ここでは脂漏性脱毛症の一般的な治療法について解説します。

内服薬による治療

脂漏性脱毛症の治療には、内服薬が用いられることがあります。 主に処方されるのは、抗真菌薬と抗炎症薬です。

抗真菌薬(マラセチア菌の増殖を抑える薬)

脂漏性脱毛症の主な原因の一つであるマラセチア菌の異常増殖を抑えるため、抗真菌薬が処方されることがあります。

ビタミンB群

皮脂の過剰分泌を抑える効果があるビタミンB群も、脂漏性脱毛症の治療には有効とされています。
特に、ビタミンB2(リボフラビン)やビタミンB6(ピリドキシン)は、皮脂の分泌を正常化 し、頭皮の健康をサポートする働きが期待できます。

外用薬による治療

脂漏性脱毛症の患部の炎症やかゆみを抑えるために、外用薬を使用することも一般的です。 症状の程度によって、さまざまな薬が処方されます。

ステロイド外用薬

炎症が強い場合には、ステロイド外用薬が処方されることがあります。 ステロイドには炎症を抑える効果があり、赤みやかゆみを改善するのに役立ちます。
ただし、長期間使用すると皮膚が薄くなるなどの副作用が生じる可能性があるため、使用期間や回数は医師の指示に従うことが重要です。

抗真菌薬入りのクリーム

マラセチア菌の増殖を抑えるために、抗真菌薬を含む外用薬が処方されることがあります。
これらの薬は、脂漏性皮膚炎を改善することで、脂漏性脱毛症の進行を抑える効果が期待できます。 代表的な外用薬には、ケトコナゾールやミコナゾールが含まれています。

脂漏性脱毛症の予防と改善策

脂漏性脱毛症の予防や改善には、皮脂分泌能を正常に保てるようなサポートを意識することが大切です。 ここでは、脂漏性脱毛症の改善や予防につなげるための改善策について解説します。

食生活の改善

脂漏性脱毛症を予防し、症状を改善するためにはバランスの取れた食生活を意識することも大切です。 特に、皮脂の分泌をコントロールし、頭皮の健康を維持する栄養素を積極的に摂取することで頭皮環境を整えるサポートが期待できます。
一方で皮脂分泌が促されてしまう食材もあるので、症状が強いうちはできるだけ摂取しないよう意識することも重要です。
なかでもビタミンB2やビタミンB6は 皮脂の分泌調整をサポートする成分です。意識的に摂取しましょう。
・ビタミンB群が含まれる食品:レバー、卵、納豆、バナナ、アーモンド、カツオ、マグロなど 
反対に皮脂の過剰分泌につながる食品はできるだけ避けるようにしましょう。
・脂っこい食事や高糖質の食品(揚げ物、スナック菓子、ジャンクフード)
・アルコール・カフェインの過剰摂取

正しい洗髪習慣を意識する

脂漏性脱毛症の改善には頭皮を清潔に保つことも重要ですが、洗髪のやり方を間違えると、逆に皮脂の分泌が乱れることがあります。 ここでは、毎日の洗髪について意識したいことを解説します。
【正しい洗髪のポイント】
・皮脂の分泌が多くても1日1回の洗髪に留めるのが望ましい(1日1回の洗髪で頭皮を清潔に保つことが大切)
・1日に何度も洗髪したり、過剰に洗浄してしまうと皮脂を取りすぎてしまい、逆に皮脂分泌が活発になりやすいので注意
【洗髪の方法】
・爪を立てずに、指の腹で優しくマッサージするように洗う
・熱すぎるお湯(42℃以上)で洗うと皮脂を過剰に除去しすぎるため、38℃前後のぬるま湯を使用するのが理想的
・洗髪後はシャンプーが残らないようにしっかりすすぐことが重要
【洗髪後のケア】
●タオルドライ後は、ドライヤーでしっかり乾かす
●自然乾燥はNG(湿った状態が続くとマラセチア菌が繁殖しやすくなる)
●乾燥が気になる場合は、頭皮専用の保湿ローションの使用を検討する

ストレス管理と十分な睡眠

ストレスや睡眠不足はホルモンバランスの乱れを引き起こし、脂漏性脱毛症を悪化させる要因の一つです。 日々の生活の中でストレスを軽減し、良質な睡眠を確保することも意識したいところ。
適度な運動を取り入れたり、リラクゼーションや趣味を楽しむ時間を設けましょう。 ストレスを溜めすぎないように意識することも重要です。
また、睡眠は頭皮の環境を健やかにするために重要な要素です。 可能であれば7~8時間の睡眠時間を確保したいところですが、難しいようであれば深い入眠が得られるよう質のいい睡眠の確保に努めましょう。
自分の好きなことに時間を使うことで、精神的なリフレッシュができます。

症状が悪化する前に早めの医師の診断を検討する

脂漏性脱毛症は、自己判断で対処しようとすると間違ったケアをしてしまい、かえって症状を悪化させる可能性があります。 そのため、症状が悪化する前に皮膚科や専門クリニックで診断を受け、適切な治療を受けることが大切です。

まとめ

脂漏性脱毛症は、頭皮の過剰な皮脂分泌やマラセチア菌の異常増殖によって引き起こされる脱毛症であり、放置すると抜け毛や薄毛が進行するリスクがあります。
しかし、正しい知識を持って早期に適切な対策を取ることで、症状の改善や進行の予防が期待できます。
治療には、抗真菌薬や抗炎症薬などが一般的に用いられます。 日常の生活習慣やヘアケアの見直しも重要です。
特に、ビタミンB群を意識的に摂取する食生活や、刺激の少ないシャンプーを選ぶなどのセルフケアを心がけることで、頭皮環境を整えるサポートとなります。
もしも頭皮のかゆみやフケ、抜け毛が気になり始めたら、自己判断での対策に頼らず、早めに皮膚科や専門クリニックに相談することが大切です。
適切な治療と日々のケアを続けることで健康的な髪の毛を取り戻しましょう。


監修者:繁和泉
看護師、予防医学士として17年。その中で毛髪再生外来の診療に携わる。薄毛にともなう患者さんのお悩みに寄り添いながら、医学的なアプローチも含め「長い目で見た」毛髪のための日常生活やケアについての指導を個別性に合わせて提供。 同時に、情報化社会の中でWEBコンテンツで「正しい情報をわかりやすく」発信することに精を出す。