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植毛手術を検討する際に、多くの人が気にするのが「ショックロス」と呼ばれる現象。
ショックロスは、植毛手術後に既存の毛髪が一時的に抜け落ちる状態を指します。
初めて植毛を受ける方にとっては驚きや不安の原因になることもあるでしょう。
しかし、ショックロスはあくまでも一時的な現象で、適切なケアを行うことで時間とともに回復が期待できます。
この現象がなぜ起こるのか、どのようなメカニズムで進行するのか、そしてショックロスを予防し、回復を早めるためにできることについて、最新の情報を交えて詳しく解説します。(2025年3月現在)
植毛後のヘアサイクルの変化を正しく理解し、必要以上に不安を感じることなく、安心して植毛治療を受けるために参考にしてみてください。
ショックロスとは?

植毛後には「ショックロス」と呼ばれる抜け毛が発生することがあります。
これは、手術による刺激やストレスによって、既存の毛髪が一時的に抜け落ちる現象のことを指します。
植毛手術ではドナー部位(後頭部や側頭部)から採取した毛髪を、薄毛が気になる部位に移植します。
この過程で頭皮に負荷がかかり、周囲の毛髪にも影響が及び、手術後しばらくすると既存の髪の毛が抜けてしまうことがあるのです。
ショックロスによる抜け毛はほとんどの場合一時的なものであり、通常は数か月以内に再び髪の毛が生えてくるため、必要以上に心配する必要はありません。
ショックロスが発生するメカニズム
ショックロスは、主に毛髪の成長サイクル(ヘアサイクル)に影響を与えることで発生すると考えられています。
通常、毛髪は「成長期」「退行期」「休止期」の3つの段階があり、このサイクルを繰り返しながら新しい髪の毛が生えてきます。
植毛手術を行うと移植部位だけでなく、その周囲の毛髪にも物理的な刺激が加わります。
これにより、すでに成長期にあった毛髪が突然「休止期」に移行してしまい、結果として抜け毛が増えてしまうと考えられているのです。
では、このヘアサイクルの乱れは何が原因で起こるのでしょうか?
ショックロスの主な原因

ショックロスが発生するメカニズムについて考えられることは前述しました。
では「なぜショックロスが起こるのか?」その原因については2025年3月現在、未だ解明されていません。
では「なぜショックロスが起こるのか?」その原因については2025年3月現在、未だ解明されていません。
植毛手術による術後ダメージが原因の一つ
植毛手術は外科的な処置をともないます。
頭皮に物理的なダメージが加わり、施術部分の頭皮に炎症や腫れが生じることがあります。
炎症により髪の毛の生育に影響を及ぼす可能性があるのです。
術後の頭皮では、以下のような経過が起こると予測できます。
【炎症による影響】
○手術後の腫れや赤みが毛包に一時的なダメージを与えることがある
○炎症や腫れの影響によりヘアサイクルに乱れが生じ、抜け毛が増えることがある
○手術後の腫れや赤みが毛包に一時的なダメージを与えることがある
○炎症や腫れの影響によりヘアサイクルに乱れが生じ、抜け毛が増えることがある
【血行不良による影響】
○術後の腫れやダメージが血管を圧迫し、一時的に毛根への栄養供給が低下する可能性がある
○血流が低下すると毛髪の成長が妨げられ、ショックロスが発生する要因となり得る
○術後の腫れやダメージが血管を圧迫し、一時的に毛根への栄養供給が低下する可能性がある
○血流が低下すると毛髪の成長が妨げられ、ショックロスが発生する要因となり得る
近年ではさまざまな移植方法が開発され、ドナー部分、移植部分ともにダメージが少なくなるような方法が考案されています。
医師や施設により植毛手術の方法によってドナー部分と移植部分にかかるダメージは異なります。
どちらの方法を選択しても、術後の頭皮環境が一時的に不安定になる可能性は十分に考えられます。
いずれにしても一定の確率でショックロスが発生する可能性は現在のところ否定できないでしょう。(2025年3月現在)
ショックロスが起こる確率はどれくらい?
ショックロスの発生率には個人差がありますが、植毛を受けた人の中で比較的多くのケースで確認されています。
はっきりとした統計が出ているわけではないのですが、臨床現場の意見を参照すると植毛手術を受けた人の20%程度の割合でショックロスが発生すると報告されています。
そしてショックロスが起こる範囲は、10〜15%程度といわれています。
しかし、この数値はあくまで目安であり、手術の方法や患者の頭皮環境、既存の毛髪の状態によっても異なります。
しかし、この数値はあくまで目安であり、手術の方法や患者の頭皮環境、既存の毛髪の状態によっても異なります。
ショックロスはいつ起こる?移植株の生着プロセスを解説
ショックロスは誰にでも起こりうるものです。
しかし、移植株の生着に関するプロセスを正しく理解していれば、脱毛症状が起きても動揺せずに過ごす一助となるでしょう。
そもそも移植株の生着とは、「移植された毛包が頭皮の新しい環境に適応し、定着して成長を始めること」を指します。
では実際に、移植株が生着するまでにはどのようなプロセスを経るのでしょうか?
以下に移植株が生着するまでの一般的なプロセスを解説します。
以下に移植株が生着するまでの一般的なプロセスを解説します。
①術後1~2週間:定着開始期
移植された毛包が頭皮に馴染む期間です。 この時期に毛包が損傷すると、生着が妨げられる可能性があるため過度な刺激や摩擦を避ける必要があります。
洗髪は医師の指示に従い、優しく行うようにしましょう。
移植された毛包が頭皮に馴染む期間です。 この時期に毛包が損傷すると、生着が妨げられる可能性があるため過度な刺激や摩擦を避ける必要があります。
洗髪は医師の指示に従い、優しく行うようにしましょう。
②術後3~4週間:ショックロス期
移植された毛髪が休止期に入り、一時的に抜け落ちることがあります。
早ければこの時期からショックロスの症状が生じます、髪が抜けても毛根が生着していれば再び成長が始まるため、心配しすぎる必要はありません。
移植された毛髪が休止期に入り、一時的に抜け落ちることがあります。
早ければこの時期からショックロスの症状が生じます、髪が抜けても毛根が生着していれば再び成長が始まるため、心配しすぎる必要はありません。
③術後2~4か月:新生毛の発育開始
この時期になると移植された毛包が新しい環境に適応し始め、毛根から新しい髪の毛が生えてきます。
最初は細くて柔らかい毛が生えますが、徐々に太くコシのある髪質へと変わっていきます。
新しい毛も生え始める時期ですが、ショックロスにより脱毛が比較的多く見られる時期でもあります。
この時期になると移植された毛包が新しい環境に適応し始め、毛根から新しい髪の毛が生えてきます。
最初は細くて柔らかい毛が生えますが、徐々に太くコシのある髪質へと変わっていきます。
新しい毛も生え始める時期ですが、ショックロスにより脱毛が比較的多く見られる時期でもあります。
④術後6か月以降:生着の定着期
毛髪の成長が安定し、移植された部位の髪が自然なボリュームを取り戻す段階です。
生着率は手術の技術や個人の体質によって異なりますが、一般的に90%以上が成功するとされています。
毛髪の成長が安定し、移植された部位の髪が自然なボリュームを取り戻す段階です。
生着率は手術の技術や個人の体質によって異なりますが、一般的に90%以上が成功するとされています。
ショックロスと「脱落」の違い

ショックロスと同じように、植毛後に髪の毛が抜けてしまう現象の一つに「脱落」があります。
ここでは、ショックロスと脱落の違いについて解説します。
植毛した毛が定着せずに「脱落」
ショックロスと混同されがちな脱落。「脱落」とは、移植株が手術後に移植部に生着せず抜け落ちることを指します。
植毛後に脱落が発生すると、ショックロスとは異なり、株が脱落した部分では新しい毛髪が生えてきません。
移植した株すべてが確実に生着してくれるのが望ましいですが、移植手術を人の手で行う以上、100%成功というのは保障しにくい実情もあります。
とはいえ、一説によると移植株の生着率は90~95% ともいわれていて、非常に高い定着率である実態もうかがえます。
逆にいうと脱落が生じる確率はわずか5%。脱落の可能性は非常に低いといえそうです。
ショックロスと脱落の見分け方
ショックロスと脱落を見分けるポイントとしては、抜けた髪の状態やその後の回復スピードを確認することが有効です。
【ショックロスの場合】
●抜け毛の根元に白い膨らみがある(毛根は残っている)
●数か月以内に新しい毛が生え始める
●一時的な現象であり、通常3~6か月で回復する
●抜け毛の根元に白い膨らみがある(毛根は残っている)
●数か月以内に新しい毛が生え始める
●一時的な現象であり、通常3~6か月で回復する
【脱落の場合】
●抜けた髪に毛根が付着しておらず、毛包が完全に失われている
●一般的に術後24時間以内に起こるとされている
●6か月以上経過しても、新しい毛が生えてこない
●抜けた髪に毛根が付着しておらず、毛包が完全に失われている
●一般的に術後24時間以内に起こるとされている
●6か月以上経過しても、新しい毛が生えてこない
ショックロスの予防法

ショックロスを確実に予防する方法は2025年3月現在、見つかってはいません。
しかし、いくつかの対処法を取り入れることで発生する症状を軽減したり、予防につなげられる方法はいくつか考えられています。
植毛を複数回に分けて行う
ショックロスを防ぐための一つの方法として、植毛を複数回に分けて行うという選択肢があります。
一度に大量のグラフト(毛包単位)を移植すると、頭皮に与える負担が大きくなり、ショックロスのリスクが高まる可能性も考えられます。
そのため、植毛を小規模に分けて実施することで周囲の毛髪への影響を軽減する効果が期待できます。
術後の頭皮ケアを徹底する
手術後の頭皮は敏感な状態になっており、適切なケアを怠ると血行不良や炎症の悪化によりショックロスが長引く可能性もあります。
適切な頭皮ケアとしては、以下のようなポイントが挙げられます。
●術後の洗髪:手術直後は頭皮を刺激しないようにし、医師の指示に従って優しく洗髪する
●保湿ケア:乾燥を防ぐために医師の指示に基づき保湿剤や育毛ローションを適度に使用する
●紫外線対策:直射日光は頭皮のダメージを悪化させるため帽子や日傘で保護する
●適切なシャンプー選び:低刺激のシャンプーを使用し、頭皮に優しい成分のものを選ぶ
●保湿ケア:乾燥を防ぐために医師の指示に基づき保湿剤や育毛ローションを適度に使用する
●紫外線対策:直射日光は頭皮のダメージを悪化させるため帽子や日傘で保護する
●適切なシャンプー選び:低刺激のシャンプーを使用し、頭皮に優しい成分のものを選ぶ
頭皮の炎症が悪化するとショックロスが長引く原因になるため、医師の指示に従い、術後の衛生管理を徹底することが大切です。
内服薬やサプリメントの活用
ショックロスを予防し、植毛した毛髪の成長を促すために内服薬やサプリメントを併用するケースもあります。
特にAGA(男性型脱毛症)が進行している人は、フィナステリドやデュタステリドなどの治療薬を内服することで、既存の毛髪の成長リズムを守りながら植毛の定着をサポートできます。
また、髪の毛の健康に欠かせない栄養素を補うために以下のサプリメントを摂取するのも効果的です。
●ビオチン:髪の毛の成長を促進し、抜け毛を防ぐ効果が期待される
●亜鉛:毛髪の細胞分裂をサポートし、健康な髪の毛を維持する
●鉄分:毛母細胞に酸素を供給し、発毛を促す
●亜鉛:毛髪の細胞分裂をサポートし、健康な髪の毛を維持する
●鉄分:毛母細胞に酸素を供給し、発毛を促す
これらの栄養素をバランスよく摂取することで、髪の毛の成長をサポートし、ショックロスの回復を早めることができます。
また、血流不足が確認できる場合にはミノキシジルなどの末梢血液循環を促進し、髪の毛の成長をサポートする成分の活用も有用です。
血行促進を意識する
頭皮の血行を促進することも、ショックロスの回復を早める重要なポイントです。
血流が滞ると毛根に必要な栄養が行き届かず、発毛が遅れる原因となります。
血行促進のためにおすすめの方法として、以下のものがあります。
●頭皮マッサージ:指の腹を使って優しくマッサージし、血流を促進する
●軽い運動:ウォーキングやストレッチを取り入れ、全身の血流を良くする
●入浴:ぬるめのお湯(38~40℃)に浸かり、リラックスしながら血行を促進する
●軽い運動:ウォーキングやストレッチを取り入れ、全身の血流を良くする
●入浴:ぬるめのお湯(38~40℃)に浸かり、リラックスしながら血行を促進する
術後の数か月は頭皮環境を整えることが重要になるため、無理のない範囲で血行促進を意識することが大切です。
ただし、術後早期の場合には患部の安静が必要な時期もあるので、頭皮マッサージについては医師に確認しましょう。
いつまで経っても回復しない場合の対処法

通常、ショックロスは一時的なものです。
時間とともに回復することがほとんどですが、6か月以上経過しても発毛が見られない場合は、何らかの問題が生じている可能性もあります。
その場合、以下の対処法を検討することが必要です。
①専門のクリニックで診察を受ける
ショックロスが長引く場合、専門のクリニックで診察を受けることをおすすめします。
医師が頭皮の状態を診断し、適切なアドバイスや治療法を提案してくれます。
可能であれば移植手術を受けたクリニックで受診するのが望ましいでしょう。
●血液検査:栄養不足やホルモンバランスの乱れがないかをチェック
●マイクロスコープ診断:毛根の状態を詳しく確認し、異常がないか判断
●適切な治療の提案:必要に応じて、育毛治療(ミノキシジル・フィナステリドなど)を提案される場合もある
●マイクロスコープ診断:毛根の状態を詳しく確認し、異常がないか判断
●適切な治療の提案:必要に応じて、育毛治療(ミノキシジル・フィナステリドなど)を提案される場合もある
早めに専門家の診断を受けることで、適切な対応をとることができ、回復の遅れを防ぐことができます。
②AGA治療を併用する
ショックロスが長引く場合、AGA(男性型脱毛症)が関係している可能性もあります。
元々AGAの症状が進行していた人は、フィナステリドやデュタステリドなどのAGA治療薬を併用することで、毛髪の回復をサポートできる場合があります。
●フィナステリド(プロペシア):DHT(ジヒドロテストステロン)の生成を抑制し、抜け毛を防ぐ
●デュタステリド(ザガーロ):フィナステリドよりも広範囲のDHTを抑制する効果がある
●ミノキシジル:血行を促進し、発毛を促す成分で内服・外用薬の2種類がある
●デュタステリド(ザガーロ):フィナステリドよりも広範囲のDHTを抑制する効果がある
●ミノキシジル:血行を促進し、発毛を促す成分で内服・外用薬の2種類がある
これらの治療は医師の診断を受けてから使用することが望ましいでしょう。
③生活習慣の見直し
ストレスや睡眠不足、不規則な生活は毛髪の成長を妨げる要因となるため、日常生活の改善も大切です。
●睡眠をしっかりとる:可能であれば7時間以上の睡眠時間の確保が望ましい。難しい場合には深い睡眠を取れるように意識する
●ストレスを溜めない:趣味やリラクゼーションを取り入れ、ストレスを軽減・溜めないように意識する
●喫煙や過度な飲酒を避ける:血行不良を引き起こし、毛髪の回復を遅らせるため控える
●ストレスを溜めない:趣味やリラクゼーションを取り入れ、ストレスを軽減・溜めないように意識する
●喫煙や過度な飲酒を避ける:血行不良を引き起こし、毛髪の回復を遅らせるため控える
ショックロスは時間とともに回復するものですが、6か月以上経過しても改善が見られない場合は専門医の診断を受け、適切な対応をとることが大切です。
まとめ

頭皮への物理的な刺激や術後の炎症によって一時的に引き起こされると考えられているショックロス。
多くの場合、移植毛が定着し、ヘアサイクルが正常に戻ることで数か月以内に自然と回復します。
植毛は薄毛治療において効果的な選択肢のひとつです。
ショックロスに対する正しい知識を持ち、冷静に対処することで、健康で自然な髪の毛を手に入れましょう。
監修者:繁和泉
看護師、予防医学士として17年。その中で毛髪再生外来の診療に携わる。薄毛にともなう患者さんのお悩みに寄り添いながら、医学的なアプローチも含め「長い目で見た」毛髪のための日常生活やケアについての指導を個別性に合わせて提供。
同時に、情報化社会の中でWEBコンテンツで「正しい情報をわかりやすく」発信することに精を出す。