【監修あり】体から自然に生じる単糖類で男性型脱毛症(AGA)を治療?その理由と可能性とは

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男性型脱毛症(AGA)は、薄毛を気にする多くの男性が直面する共通のお悩みです。
2024年9月現在、AGAの治療にはミノキシジルやフィナステリドが使用されるのが一般的とされていますが、これらの薬は副作用のリスクがあることも知られています。
そのため、より安全で効果的な代替治療法の研究が続けられています。
その中で新たに注目を集めているのが、体内で自然に生成される単糖類である「2-デオキシ-D-リボース(2dDR)」です。
この記事ではこの2dDRがどのように育毛につながる可能性があるのか、そのメカニズムと可能性について詳しく解説します。

単糖類とは

単糖類とは、最も基本的な形態の炭水化物を指します。 他の糖にこれ以上分解されない状態の最小の糖分子のことです。
単糖類は分子内に複数のヒドロキシル基(OH⁻)を持つアルデヒドまたはケトンに分類され、その中でもアルデヒド基を持つものをアルドース、ケトン基を持つものをケトースと呼びます。

単糖類の役割

単糖類をはじめとした糖質は生命体の代謝において非常に重要な役割を果たしています。
エネルギー源として利用されるだけでなく、細胞の形成やシグナル伝達など、さまざまな人体の構成要素として活用されているのです。
特にグルコース(ブドウ糖)は人間の生命活動を担う脳のエネルギー源として活用され、他に代替えの利かない唯一の役割をしています。

単糖類の一般的な種類

グルコース(ブドウ糖)

ブドウ糖は最も一般的な単糖類で、血糖として知られています。 エネルギー供給の主要源であり、ほとんどの生物が利用しています。 動植物に含まれ、自然界にも多く存在します。

フルクトース(果糖)

フルクトースは果糖としても知られ、蜂蜜や果物などに多く含まれています。 肝臓でグルコースに変換され、エネルギー源となります。

ガラクトース

ガラクトースは乳糖を構成する単糖の一部で、乳製品に多く含まれ、グルコースと結合してラクトース(乳糖)を構成します。
フルクトース同様、体内ではグルコースに変換されます。

単糖類が髪に与える影響についての研究

単糖類と育毛に関する研究で近年興味深い報告がされました。(2024年9月現在)
英国シェフィールド大学とパキスタンのコムサツ大学の共同研究陣は、「人体で自然にできる単糖類である2-デオキシ-D-リボース(2-deoxy-D-ribose•2dDR)で傷を治癒する方法」を研究していた過程で育毛に関する反応が確認できたと発表したのです。

2-デオキシ-D-リボース(2-deoxy-D-ribose•:2dDR)とは?

今回研究対象となった単糖類「2-デオキシ-D-リボース(2-deoxy-D-ribose•:以下2dDR)」。
2dDRは単糖類であるリボース(※)から酸素が一つ取れたものを指します。
2dDRは、創傷治癒過程で働く再生因子の一つ「血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:以下VEGF)」の80~90%の働きと同等の反応が現れることが確認されました。
2dDRは、新生血管形成(血管新生)を刺激する効果があり、血液供給の改善を通じて細胞の再生と成長を促進すると考えられます。
この2dDRの作用により、実験用マウスの創傷治癒を促す目的で傷に塗ると、傷の周りの毛が塗布していないところに比べ早く伸びているという結果が得られたのです。
つまり、今回の研究では創傷治癒の促進の可能性だけでなく、脱毛症の治療にも応用できる可能性が示唆されたのです。
(※リボース:RNAの材料となる単糖類の一つ)

単糖類2dDRの塗布を育毛につなげる研究概要

創傷治癒の研究を進める中で、シェフィールド大学組織工学科のシェラ・マクニール名誉教授は2dDRが男性型脱毛症(以下AGA)の治療につながる可能性を示唆しています。
AGAとは、男性の脱毛症状に影響を与える脱毛症です。
男性ホルモンのテストステロンがジヒドロテストステロン(DHT)に変換され、それが毛包に影響を与えることで脱毛が進行します。 また、血液供給不足や毛包の栄養不足なども症状を進行する原因となります。
血管新生(新しい血管の形成)が起こると、毛包の血液供給を改善し、髪の成長サイクルの促進につながります。 2dDRは血管新生を促進する能力を持ち、髪の成長にも役立つ可能性があると考えられます。
この研究では、2dDRが毛髪の再生を刺激するかどうかを、動物モデルを用いて研究しました。

研究方法

研究では実験用マウスを脱毛症モデルとして脱毛させ、その後2dDRを含むゲルを20日間脱毛部分に塗布しました。
毛髪再生の毛包の形態、密度、毛の長さ、毛包の成長率などを評価しました。

研究結果

2dDRを投与したグループは毛包の形態形成が大幅に促進され、毛髪再生が顕著に改善されました。
具体的には毛包の長さ、密度、毛の太さ、成長期の毛包の割合などが増加し、血管新生の促進も観察されたそうです。

結論

今回の実験により2dDRは、AGAの治療に有効である可能性が分かりました。
2dDRの作用機序は未解明の部分もありますが、血管新生を促進することで髪の再生を助けると考えられます。

単糖類がAGA治療に使われる可能性

単糖類である2-デオキシ-D-リボース(2dDR)は、男性型脱毛症(AGA)の治療に新たな可能性をもたらす成分として注目されました。
研究によれば、2dDRが血管新生を促し毛包(毛の根元の組織)における細胞の健康を改善し、細胞の成長や再生を促進することで、髪の成長をサポートできる可能性があるという結論になりました。
AGAの主な原因は、男性ホルモン(アンドロゲン)に対する毛包の感受性が高まることで毛包が縮小し、髪が細く短くなることです。
2dDRがこのプロセスにどう影響するかはまだ研究段階ですが、頭髪成長における細胞代謝を支援する可能性が示唆されています。

ミノキシジルやフィナステリドに代わる男性型脱毛症の治療として期待

男性型脱毛症(AGA)は世界中の多くの男性に影響を与え、悩みの種になっている疾患です。 AGAの治療には、FDAで認可されたミノキシジルやフィナステリドが一般的に使用されています。
これらの薬剤は多くの患者に対して効果が期待できる一方で、副作用や効果の限界も存在します。
そのため、より安全で効果的な代替治療法の探索が今も続いています。(2024年9月現在)

ミノキシジルとは?

ミノキシジルは、もともと高血圧の治療薬として開発されましたが、使用した患者の一部で多毛症(異常に髪が生えること)が観察されたことから脱毛症治療薬としての効果が注目されるようになりました。
現在では外用薬としてAGAの治療に広く用いられており、FDA(米食品医薬品局)に承認されています。

ミノキシジルの効果

ミノキシジルは毛包の血流を改善し、毛母細胞の活性化を促すことで髪の成長を刺激します。
特に初期段階のAGAに対して有効で、使用を継続することで頭髪に関する毛細血管の血流が促され、毛髪の密度が増加し抜け毛の進行を遅らせる効果が期待できます。

ミノキシジルの副作用

一方でミノキシジルにはいくつかの副作用も報告されています。 主な副作用としては頭皮のかゆみ、乾燥、赤みなどの皮膚症状です。
また、心臓や血圧に対する影響が懸念されるケースもあり、特に高血圧や心臓疾患を持つ患者の使用には注意が必要です。
さらに、ミノキシジルを使用している間は一時的に抜け毛が増えることがあり、これは「初期脱毛」と呼ばれます。
これは古い毛髪が抜けて新しい髪が生えてくる過程で生じるもので、一般的には使い続けることで症状は消失するので通常は心配ありません。
しかし患者が不安に感じてしまい、使用をやめてしまうケースもあります。

フィナステリドとは?

フィナステリドは男性型脱毛症の進行を遅らせるために使用される内服薬です。
この薬剤は、5α-還元酵素を阻害することでテストステロンのジヒドロテストステロン(DHT)への変換を抑制し、DHTによる毛包の萎縮を防ぎます。 フィナステリドは1997年にFDAにAGA治療薬として承認されました。

フィナステリドの効果

フィナステリドは使用を続けることで脱毛の進行を抑制し、毛髪の密度を維持することができます。
多くの臨床試験において、フィナステリドを使用した患者の80%以上で脱毛が抑制され、さらには新たな毛髪の成長が見られたとの報告もあります。

フィナステリドの副作用

一方でフィナステリドの使用にはいくつかの副作用が伴うこともあります。
最も懸念されるのは男性ホルモンの働きを抑えることにより生じる性欲減退や勃起不全、女性化乳房などの性機能障害です。
使用には十分な注意が必要で、治療開始前に医師からの説明を十分に行い、患者自身もしっかりと理解・認識する必要があります。
また、うつ病や気分障害との関連性も指摘されており、患者はこれらのリスクを理解したうえで治療を開始することが必須となります。

新たな代替治療法への期待

FDAに認可され、効果と安全性に期待が持てるミノキシジルやフィナステリド。 しかしながら副作用のリスクは「0」ではありません。
2dDRは血管新生を促進し、毛包への血流を改善することで、髪の成長を助ける可能性があります。
要約するとミノキシジルと同じような働きで発毛促進効果を示したと考えられ、尚且つ体内にある物質なのでミノキシジルよりさらに副作用が少ないことも期待されています。
ミノキシジルやフィナステリドは、AGA治療において非常に有効な薬剤ですが、副作用や効果の限界もあるため、これらに代わる新しい治療法が期待されています。
2dDRをはじめとする新しい育毛へのアプローチは、今後の研究と臨床試験により、その有効性と安全性が確認されることで治療への応用が期待できるでしょう。

まとめ

ミノキシジルやフィナステリドに代わるAGA治療法として、2-デオキシ-D-リボース(2dDR)の応用が期待されています。
2dDRは血管新生を促進し、毛包への血流を改善することで髪の成長を助ける可能性があることが研究によって示されました。
AGA患者にとって、今後2dDRによる育毛治療が可能になれば、より安全で副作用の少ない新しい治療の選択肢となるかもしれません。
これからの研究と臨床試験によって、2dDRの効果と安全性がさらに確認されれば、AGA治療の新たな一歩となるでしょう。


監修者:繁和泉
看護師、予防医学士として17年。その中で毛髪再生外来の診療に携わる。薄毛にともなう患者さんのお悩みに寄り添いながら、医学的なアプローチも含め「長い目で見た」毛髪のための日常生活やケアについての指導を個別性に合わせて提供。 同時に、情報化社会の中でWEBコンテンツで「正しい情報をわかりやすく」発信することに精を出す。