【医療監修あり】卵巣奇形腫で髪の毛が含まれるのはなぜ?

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卵巣奇形腫は、特に若い女性に多く見られる卵巣腫瘍の一つです。
その中でも皮様嚢腫(dermoid cyst)は、髪の毛や皮膚、歯などの組織を含むことが特徴で、通常は良性腫瘍として扱われます。
本記事では、卵巣奇形腫ではなぜ髪の毛が含まれるのか?という理由と皮様嚢腫が形成される理由、診断方法、治療法について詳しく解説します。

卵巣の奇形腫とは?「皮様嚢腫」

卵巣の奇形腫として知られる「皮様嚢腫(dermoid cyst)」は、卵巣に発生する良性腫瘍の一つです。
皮様嚢腫は、主に女性の生殖期に見られます。 一般的には20代から30代の若い女性によく見られますが、年齢に関係なく発生することもあります。
この腫瘍は、皮膚や皮膚のような組織を含んでいるため「皮様(dermoid)」と呼ばれ、髪の毛、脂肪、骨、歯など、通常皮膚や他の組織で見られるものを含んでいる場合があるのです。
これらの組織が含まれるのには毛や汗腺、歯などの器官の発生過程やその関連分子が類似しているためかもしれません。
これは腫瘍のもととなった要因が卵子の中にある分化前の細胞が、卵巣の中で人となる体の組織を作ろうとしているためだと考えられています。
はっきりとした原因は現在不明で予防法も明らかにされていません。(2024年7月現在)
皮様嚢腫は一般的に良性で通常は症状を引き起こさず、何らかの検診の時などに偶発的に発見されることが多いです。
しかし時には大きくなることもあり、皮様嚢腫により圧迫症状を引き起こすこともあります。
皮様嚢腫が大きくなり何らかの症状が出て日常生活に支障をきたす場合には、手術によって腫瘍全体を取り除く治療が一般的です。

基本的には良性腫瘍

皮様嚢腫は基本的には良性の腫瘍です。卵巣に起こる腫瘍の約90%は良性腫瘍です。 周囲の組織に侵入せずに成長する腫瘍であり、悪性腫瘍(がん)とは異なり、転移することはありません。
卵巣嚢腫の中の80~90%は卵巣嚢腫、さらにその約半数が卵巣奇形腫なので、皮様嚢腫は珍しい病気ではないのです。 ごく稀に高齢の患者さんで見つかるケースもあり、その場合には悪性腫瘍との判断が付くこともあるようです。

細胞分裂の結果髪の毛などができる

皮様嚢腫は、異常な細胞分裂によって髪の毛を含む多様な組織が形成されることが特徴です。
この腫瘍は通常、受精していないのに細胞が勝手に分裂を始め、卵巣内で成長し、その結果、成熟したさまざまな組織が混在した腫瘍となります。
そのため髪の毛や脂肪、時には歯や骨などの組織が腫瘍内に見られることがあります。

痛みが生じて発覚することが多い

皮様嚢腫(dermoid cyst)は、一般的には無症状で経過します。 しかし、まれに腫瘍部分が大きくなることによって痛みや不快感を伴う場合があり、発見されることが多いです。
また、できてしまった腫瘍により、卵巣の根もとからねじれて「茎捻転」が起こった場合には非常に強い痛みが生じて発覚することもあります。

起こりうる自覚症状

皮様嚢腫は一般的に無症状で経過しますが、腫瘍サイズが徐々に大きくなることで起こり得る自覚症状もあります。
①腹部の不快感や圧迫感
腫瘍が大きくなると、腹部に圧迫感や不快感を引き起こすことがあります。
②腹部の痛み
腫瘍が圧迫することにより、腹部や骨盤周辺で痛みを感じることがあります。
③排尿障害
大きな腫瘍が膀胱や尿道に圧迫をかけることで、頻尿などの排尿に関する問題が起こることがあります。

診断につながる検査

皮様嚢腫の診断には自覚症状が出て受診するよりも、その他の検診の時などに偶発的に見つかる場合が多いです。
皮様嚢腫の診断をつけるまでには以下のような検査が行われることがあります。
①超音波検査
最も一般的な検査方法で卵巣の構造を観察できます。
この検査で腫瘍の存在や大きさ、形状などを確認します。 概ねの良性腫瘍なのか、悪性腫瘍化の目星をつけます。
②血液検査
腫瘍マーカーと言われる、がんの悪性度を示す指標となる血液検査が行われます。 一般的には全身の健康状態の評価もあわせて行います。
皮様嚢腫の場合、腫瘍マーカーのうち「CA19-9」という数字が時として高くなることがあり、診断するうえで参照しています。
②CT・MRI
腫瘍の詳細な位置や周囲の組織との関係を調べるために行われることがあります。
必ずしも行われるわけではなく、症例や腫瘍の状況により医師が必要と判断した場合に行います。
これらの検査結果に基づいて、医師は皮様嚢腫の診断を確定します。

基本的な治療法は手術

皮様嚢腫の基本的な治療法は手術です。 皮様嚢腫が見つかったからと言って必ずしも手術になるわけではありません。
腫瘍の大きさや患者さんの年齢、これからの妊娠や出産に向けての意向などを考慮して手術の可否や手術方法を決定します。
一般的に卵巣に腫瘍ができた場合、手術適用となるのは以下のケースです。
・悪性腫瘍だと認められる場合
・腫瘍の大きさが5-6㎝を超える場合
・茎捻転を起こしている場合
①手術
基本的に良性腫瘍の場合には、腫瘍部分だけを取り除く手術をします。
年齢的に若く、これから妊娠・出産の可能性がある場合にはできるだけこの術式を取ります。 腫瘍を完全に取り除くことで再発や合併症のリスクを減らします。
稀ではありますが、腫瘍が大きくなって他の組織と癒着してしまった場合、付属器官もあわせて切除するケースもあります。
基本的には体への負担が軽く傷跡も小さい腹腔鏡手術で摘出するのが一般的です。
腹腔鏡下手術(laparoscopic surgery)では、小さな切開を数カ所入れて内視鏡を挿入し、細長い手術器具を使用して卵巣にアプローチして腫瘍を取り除きます。
腹腔鏡手術は回復が比較的早く、入院も短い場合が多いです。
【ロボット支援腹腔鏡手術「ダヴィンチ」】
婦人科疾患に対するロボット支援下手術が2018年4月から保険診療として認められ実施できるようになりました。 この手術は良性疾患に対する手術などに適用されます。
ロボット支援下手術は、手ぶれ補正機能付きの3D立体視が可能で、実際に医師が手元で操作しているような自由度の高い鉗子操作が可能になり、より繊細な手術が実現できるようになりました。
ダヴィンチを使用した腹腔鏡手術はどの病院でも受けられるわけではありません。 ダヴィンチを導入しているかどうか、ダヴィンチを操作できる婦人科医師が在籍しているかどうかも必須条件です。
通常の腹腔鏡手術よりも繊細な手術操作が可能になり、視野も非常に良好な環境で手術できるため、さらなる体への侵襲低減が期待できる手術です。
②病理学的評価
一般的には切除した腫瘍を解析し、病理学的な診断をつけて最終的な良性か悪性かの判断をつけます。
病理学的診断は、専門の医師や検査技師が細胞を直接顕微鏡等で観察して行う検査です。

卵巣以外に生じる奇形腫も髪の毛を含んでいる場合もある

卵巣の奇形腫もそうですが、奇形腫の発症メカニズムは現在のところ明確には解明されておらず、予防法も確立されていません。(2024年7月現在)
奇形腫は胚細胞腫瘍の一種です。 はっきりとした原因はまだわかっていませんが、胎児期に臓器に分化する能力を持つ「原始胚細胞」が腫瘍化したものとされています。
主に生殖器である精巣や卵巣に発生しやすいですが、後腹膜や仙骨部、脳の松果体など体のさまざまな部分に生じることがわかっています。

奇形腫の症状

症状は腫瘍の部位とタイプにより異なります。 成熟奇形腫では腫瘍が大きくなり、その内容物には髪の毛や皮膚・歯などが含まれます。
時間をかけて大きくなることで徐々に周囲の臓器を圧迫し、さまざまな圧迫による症状を引き起こします。

奇形腫の検査・診断

奇形腫の診断には、以下の検査が行われます。
画像検査:CT、MRI、超音波を用いて腫瘍の大きさ、位置、転移の有無を調べます。
血液検査:悪性か良性かの判断の参照としてAFPやβ-HCGなどの腫瘍マーカーを測定します。
病理検査:腫瘍の組織を顕微鏡で調べることで、確定診断や悪性度を評価します。

奇形腫の治療

奇形腫の治療は主に手術による摘出です。成熟奇形腫の場合、基本的には良性腫瘍です。 良性の奇形腫は手術のみで治療可能です。
しかし、脳に発生した場合や手術が難しい部位では放射線治療などが導入されることもあります。

まとめ

卵巣奇形腫でもある皮様嚢腫(dermoid cyst)。 基本的には良性腫瘍であり、一般的には無症状で経過することが多いです。
しかし、腫瘍が大きくなることで腹部の不快感や痛みを引き起こすことがあります。 診断には超音波検査や血液検査、CT・MRIなどの画像検査が用いられ、基本的な治療法は手術です。
皮様嚢腫が髪の毛や皮膚、歯などの組織を含むのは分化前の細胞が異常に成長するためで、未分化な細胞がさまざまな組織に分化する過程で髪の毛などが形成されます。
原因がはっきりとしていないため予防法は明確にされていません。(2024年7月現在)
現在の主な治療法は手術によって腫瘍を完全に摘出することです。
近年では、腹腔鏡手術やロボット支援腹腔鏡手術(ダヴィンチ)など、体への負担を軽減する手術方法も選択肢としてあり、患者さんの回復も早くなることが期待されます。
腫瘍といわれると、悪性ではないかと不安になることもあるでしょう。
病名の「奇形」という言葉にも不安を感じるかもしれませんが、基本的には恐ろしい病ではありません。
卵巣奇形腫を理解することで、医師と治療方針をしっかりと相談することができるでしょう。


監修者:繁和泉
看護師、予防医学士として17年。その中で毛髪再生外来の診療に携わる。薄毛にともなう患者さんのお悩みに寄り添いながら、医学的なアプローチも含め「長い目で見た」毛髪のための日常生活やケアについての指導を個別性に合わせて提供。 同時に、情報化社会の中でWEBコンテンツで「正しい情報をわかりやすく」発信することに精を出す。