【医療監修】髪の毛が増えるのは誤解?知っておくべきホルモン補充療法の仕組みとリスク

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女性ホルモンと薄毛の因果関係。
女性ホルモンの分泌バランスが乱れることにより薄毛や脱毛につながるケースは少なからずあります。
しかし、不足したホルモンを補っただけで、薄くなった髪の毛が元に戻るわけではありません。 「ホルモン補充療法を受けたら毛が生える」という安易な考えは大変危険です。
この記事ではホルモン補充療法で髪の毛が生えるかどうかという疑問について解説していきます。

女性の薄毛と女性ホルモンの関係

女性の薄毛にはさまざまな原因があります。
生活習慣の乱れやストレスなどが要因になることもありますが、ときに女性ホルモンのバランスが影響を及ぼしていることもあります。
女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンがあります。 働きの一つに髪の成長サイクルを正常に保つ役割があり、特にエストロゲンは髪の成長を促進し、脱毛を抑制する作用があります。
女性ホルモンの働きが弱くなったり乱れたりすることで、薄毛の一因となることは少なからず考えられます。

女性ホルモンが髪に影響を及ぼす働き

女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンは、髪の毛の健康と成長に少なからず影響を与えます。 女性ホルモンに限らずですが、ホルモンバランスの崩れは髪の成長サイクルに影響を与え、結果として脱毛や薄毛を促すこともあります。
特にストレス、生活習慣の乱れはホルモンバランスの乱れを二次的に引き起こしやすい要因です。 また、閉経や更年期障害などにより、一時的に起こるホルモンバランスの乱れが髪の成長に影響を及ぼすこともあります。
1.エストロゲンの役割
エストロゲンは頭皮の血流を改善し、髪の健康を保つために必要な栄養素を供給する役割があります。
つまり、頭皮を健やかにして髪の成長をサポートし、髪のハリやコシ、つややかさに貢献しています。
2.プロゲステロンの役割
プロゲステロンは、排卵を期に分泌が高まるホルモンです。
髪の成長を促進し、ヘアサイクルの成長期を延長する効果があります。 成長期が長くなることで、髪が太く長く成長しやすくなります。
女性ホルモンの分泌バランスが崩れると、髪の成長が阻害され、薄毛や脱毛の原因となることがあります。
女性のホルモンバランスの乱れは、ストレスや生活習慣などからも起こり得ますが、特に更年期に起こりやすいといわれています。
もちろんホルモンバランスの乱れにつながる生活習慣やストレス管理も重要です。 しかし、症状によっては医療のサポートを受けることが必要になってくることもあるでしょう。

ホルモン補充療法(HRT)とは

女性ホルモンの乱れにより、さまざまな症状が生じて日常生活にまで影響を及ぼす場合には、医学的な介入が必要なケースもあります。
ホルモン不足の症状に対して行われる治療の1つが「ホルモン補充療法(以下:HRT)」です。
一般的にホルモン補充療法(HRT)は、女性ホルモンの不足を補うための治療法です。 更年期や閉経後の女性に対しての治療として用いられます。
エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンを補充する治療を進めることもあります。 薬として投与することでホルモンバランスを整え、さまざまな更年期症状を緩和する目的があります。

ホルモン補充療法の効果

ホルモン補充療法にはさまざまな症状を改善したり、予防したりする効果が期待できます。 主に以下のような効果が期待できます。
・更年期症状の緩和
HRTは、ホットフラッシュや夜間の発汗、不眠、気分の不安定、うつ症状などの更年期症状の緩和が期待できます。 特にホットフラッシュには効果的といわれています。
・骨粗鬆症の予防
エストロゲンは骨密度の維持に重要な役割を果たしています。エストロゲンが不足してる状態をHRTによって補充することで骨密度を増加させることがわかっています。 骨の健康が維持されやすくなり、骨粗鬆症のリスクが低減します。
・性機能の改善
エストロゲンの補充により、膣の乾燥や不快感が軽減され、性機能の改善が期待できます。
HRTをする大きなメリットとして、ホルモンバランスの改善によりさまざまな不快な症状が改善し、全体的な生活の質が向上することが挙げられます。
HRTの投与方法は、経口薬、パッチ、ジェル、注射などさまざまです。
患者さんの生活スタイルや症状に応じて、医師とともに適切な方法を選択をしましょう。

ホルモン補充療法の副作用

ホルモン補充療法(HRT)には、多くのメリットがある一方で、副作用やリスクも存在します。以下に主な副作用を挙げます。
一般的に治療を開始してからよくみられる副作用は「不正出血(生理以外の出血)」「胃のむかつきや嘔気」「乳房のハリや痛み」などが代表的ですが、2~3ヶ月ぐらいで軽減します。
また、女性ホルモンを補充することにより女性特有の疾患である「乳がん」や「子宮がん」のリスクが増大する可能性があると言われますが、一般的に5年未満の使用であればリスクを高めないと言われています。

女性ホルモンが減ることで薄毛になることも

女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンは、髪の成長サイクルや健康に影響を及ぼします。
特にプロゲステロンは毛周期の成長期を延長させ、髪が太く健康に育つのを助けます。 逆にプロゲステロンの減少は成長期が短くなることを意味し、髪が薄く、細くなる原因となります。
エストロゲンは、頭皮の皮脂分泌を抑える役割を持っています。 このエストロゲンの減少により、皮脂が過剰に分泌されると毛穴が詰まりやすくなり、健康な髪の成長が阻害されます。
結果として、閉経やホルモンバランスの乱れによりこれらのホルモンが減少すると、薄毛につながることがあるのです。

更年期障害で薄毛になるの?

更年期障害の女性ホルモンの減少は、直接的な抜け毛につながるわけではありません。 必ずしも更年期=薄毛になるということではないのです。
更年期には女性ホルモンが不足することにより、ヘアサイクルが短くなったり、発毛や育毛に悪影響を及ぼすこともあります。 同じ更年期の女性でももともとストレスが溜まっていたり、生活習慣が乱れていると髪が抜けやすくなることもあるようです。
一概にホルモンバランスの乱れだけが原因とは言い切れないのが、女性の薄毛の複雑な要因と言えるでしょう。

ホルモン補充療法で髪の毛は増える?

繰り返しになりますが、ホルモン補充療法(HRT)は更年期や閉経後の女性にホルモンバランスの変化を補うために行われる治療です。
本来この治療はエストロゲンやプロゲステロンの減少を補うことで、さまざまな不快な症状を緩和する目的で用いられます。
エストロゲンやプロゲステロンを補うので、それぞれが減少したことにより生じている薄毛症状であれば多少の改善は少なからず期待できますが、必ずしも効果があるわけではありません。
髪の毛の健康を改善する効果を期待するなら、髪の毛の成長サイクルにフォーカスした治療を受ける方が確実でしょう。

白髪とホルモン補充療法の因果関係は?

ホルモン補充療法(HRT)と白髪の因果関係については、直接的な影響は明確に示されていません。
白髪の主な原因はメラニンの生成が減少することによるものです。
メラニンは髪の毛に色を与える色素であり、その生成は遺伝や加齢、ストレス、栄養不足などさまざまな要因が影響しています。
ホルモンとの直接的な因果関係ははっきりとしないため、HRTとの因果関係も未知数です。

女性の薄毛にアプローチする医学的治療法

薄毛治療薬はホルモンの作用にアプローチするものもあるので、男性用と女性用で使われるものが異なります。 ここでは一般的に用いられる女性用の医薬品について紹介します。

内服薬

・パントガール
女性向けの育毛治療薬としては有名な商品のひとつ。
女性向けの薄毛や抜け毛の改善目的で作られていますが、髪に良い栄養素をふんだんに配合している薬剤のため医薬品よりもサプリメントに近い配合になっています。 副作用も生じにくいことから飲み続けるのに適しています。

外用薬

・ミノキシジル(2%)
外用薬としても使用されるミノキシジル。ミノキシジルは高血圧の薬を開発する過程で発毛効果があるとされ、のちに発毛剤に転用された成分です。 内服タイプもありますが、女性が使用する際には基本的に外用治療として用いられます。
ミノキシジルはヘアサイクルに働きかけます。毛母細胞の活動を促進し、毛髪の「成長期」を延長します。
また、休止期から成長期への移行を促進することで育毛・発毛効果が期待できます。

女性ホルモンが減少してもできる薄毛対策

女性ホルモンが減少する年齢を迎えても、日常の中でできる薄毛対策はあります。
ここでは女性ホルモンが減少する中年期以降でも有効な薄毛対策についてご紹介します。
①バランスの取れた食事
栄養バランスの良い食事を摂ることは健康な髪の成長に重要です。特にタンパク質、ビタミン、ミネラル、オメガ3脂肪酸を含む食品を積極的に摂取しましょう。
②ストレス管理
ストレスは交感神経を優位にし、頭皮に栄養を運ぶ毛細血管を収縮させます。髪に必要な栄養素の運搬と老廃物の排泄が滞り、薄毛の要因になりかねません。
ストレスを軽減するためには適切な睡眠、リラクゼーション(瞑想やヨガ)、趣味など、自分でできるリフレッシュ法を生活の中に取り入れてストレスを溜め込まないことが重要です。
③正しいヘアケア
毎日のシャンプーやブロー、ヘアスタイリングなどが知らないうちに髪の健康に悪影響を与える場合があります。
適切なヘアケア製品の選択や、柔らかいブラシの使用、ヒートプロテクトを意識したヘアケアなど、髪にやさしい手入れを心掛けましょう。
頭皮や髪、育毛につながる生活習慣などは、小さな積み重ねが重要です。 できることから取り入れて、ホルモンバランスに影響されにくい土台を育みましょう。

まとめ

基本的にホルモン補充療法(HRT)は、更年期症状の緩和や骨粗鬆症の予防に活用されます。 医薬品なので副作用やリスクも伴うでしょう。
HRTが薄毛改善に役立つこともありますが、確実性はありません。
髪の健康を保つためにはバランスの取れた食事、ストレス管理、適切なヘアケアなどの総合的なアプローチが必要です。
ときに医学的な介入を要するケースもありますが、HRTとは違って育毛につながる成分を厳選しているので効果の実感には違いがあるでしょう。
HRTの使用には基本的に医師との相談が不可欠です。 リスクと効果を慎重に評価することが重要で、育毛目的では用いられません。
髪の健康のためには生活習慣を意識しつつ、日々の疲れやストレスをリフレッシュしながら、上手に医薬品を活用したいですね。


監修者:繁和泉
看護師、予防医学士として17年。その中で毛髪再生外来の診療に携わる。薄毛にともなう患者さんのお悩みに寄り添いながら、医学的なアプローチも含め「長い目で見た」毛髪のための日常生活やケアについての指導を個別性に合わせて提供。 同時に、情報化社会の中でWEBコンテンツで「正しい情報をわかりやすく」発信することに精を出す。